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大九 明子


1968年神奈川県横浜市出身。明治大学政治経済学部政治学科卒業。官庁の外郭団体の秘書からお笑いタレントに転身。その後、映画美学校に第一期生として入学。同校在学時に『意外と死なない』で映画監督デビュー。2005年に有限会社『猿と蛇』を設立。代表作に『恋するマドリ』など。2014年に『放課後ロスト』を公開。2015年には『でーれーガールズ』が公開予定である。


――大学時代はどう過ごされたのですか?
政治経済学部だったんですけど、当時はまだ映画監督になるようなことはやっていなくて。
琉球民俗学のゼミをとっていてそのフィールドワークが面白かったんですよね。
お笑いコントを仲間で集まってやったりしていたので、
人を楽しませたりするのは学生のときから結構好きでした。
ただ、将来のことはあまり真剣に考えていませんでした。


――どういった経緯で映画監督になったのですか?
労働省の外郭団体に就職したけどそのお仕事を4ヶ月で辞めてしまって、
お笑いをやってみようかなということで人力舎のスクールに一期生として入りました。
それなりに一生懸命やって、最初は楽しくネタを作ってやれていたんですけど
作り続けることが難しくてだんだん尻すぼみになっていった。
そこで俳優業みたいなものもちょっと声をかけてくれる方がいたからやっていたんですけど、
すごく燃えて一生懸命やっていたお笑いに比べて違和感があってストレスばかりで。
よく考えたら私は作りたい人間であって、演出をされたい人間じゃないんだなというのに気付いて、
やっぱり出る側じゃなくて作る側の勉強をしたいと突然思い立ったんです。
映画はずっと若い頃から好きで映画館によく通っていたので、
映画美学校のチラシを見て、今度これを学んでみるかと思って入りました。
その学内でシナリオコンペがあって選ばれたら映画を撮れるというものだったんですけど、
それに自分が選ばれて。
まさか選ばれるとは思ってなかったので本当にびっくりしたけれど、やってみたんです。
やりながらだんだん作ることが本当に好きなんだっていうことが分かって。
押し付けられている感じが全然なくて、このまま作り続けられたら本望だなと思いました。
その後は、友達と集まって自主映画作家という形で年に一本撮るということを続けていました。
その学校を卒業して5年くらいたったときに、学校で色々と周辺のことを手伝ってくれていた
女性プロデューサーの方に声をかけてもらって、
「恋するマドリ」という映画を作りまして、商業映画のデビューがそれになりました。


――今回の明大祭の「想いが集う、その先へ」というテーマにちなんで、
大九さんはどんな想いで映画を撮影しているかを教えてください。
作品によって色々あるけれども、根本的には「人ってかわいい」というようなことを
大事に撮りたいなと思っていました。
一生懸命地に足つけて粛々とやっているんだけど、
ちょっぴりうまくいかなかったりするようなもがいてる姿が好きだし、
そういう人達に寄り添いたいなという想いでいつも作るようにはしていますね。


――今までに映画監督として苦労したことはなんですか?
いっぱいありますね。
でも、やっぱりシナリオ書いたりすることとか映画を撮り終わってからの編集作業とかっていう
好きなことはやっていられるんですけど、肝心の撮影ってやっぱり人付き合いなんですよね。
だから俳優やスタッフに関しても、人付き合いなのでいつも学びの場だなと感じます。
何本やっても毎回同じパターンなんて絶対ないし、難しいなと思いますね。
あと、やっぱりスタッフや出ている俳優に自分のイメージを伝える時の言葉遣いには気をつけています。
呑んでいる時とか友達と遊ぶ時は、汚い言葉を使う駄目な人間なんですけど、
現場では、あえてすごい丁寧に喋るようにしています。空気を汚さないようにしたいなと思って。
あんまり上からものを言うようなことは決してしたくないし、
特にそういう意味では気持ちが画に出ちゃうんですよ。
俳優を追い込んで嫌な感じにすると、
嫌な感じの空気感とかが画に出ちゃうので、結局自分が損するんですよね。
自分の映画がそういう空気になっちゃうから。
だから、言葉遣いはすごく慎重に現場だけはしていますね。
だから、俳優を叱ることもない。
水に落ちてもらったり、裸になってもらってラブシーンを演じてもらったりというような
ひどいこともいっぱいさせますし。
空気を汚すよりは気持ちよくやってもらいたいです。


――お仕事にやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
公開中にお客さんから声をいただいた時とか、
自分にとってすごく大事な映画になりましたっていう声をくださったりするお客さんがいると、
「やったー!!」ってすごい叫びたくなります。


――明大生へのメッセージをお願いします。
私が学生だった時よりも就職とかいろいろ過酷な状況にあると思いますが、だんだん楽になるし、
若い時に目の前のことに追われて悩むことがいっぱいあっても年取ると絶対笑えるようになるので、
めげずに一日一日を大事に生きてほしいなと思います。
大学時代にやっておいてほしいことは、好きなことを徹底してやっておくってことかな。
私も、その時まさか映画監督になるとは思っていなかったけど、
映画が好きだったから無意識に映画をなるべく多く観ようという想いで暮らしてた。
あと、お笑いも一生懸命やっていましたし、
「私これ好きだな」って思ったり気がつくことがあるのなら、
なるべくやっておくと損はないと思います。